エキストラ事務所での嫌な思い出

ぼくは一時期エキストラ事務所に登録していました。

表参道かどこかで、スカウトっぽく「キャッチ」をしているのです。
「すごく雰囲気がいいなと思いまして声をかけたんですけど、モデルや俳優の仕事に興味はないですか」的な。

ぼくは当時大学3年、バンドのボーカルや歌手として飯を食っていけたらいいななどと考えていたので、芸能界には少なからず興味がありました。

なので、声を掛けられたぼくは浮かれていました。

話を聞くうちに、ああ、これはいわゆるスカウトではないのだなと悟りました。

芸能界に興味がある人をだましているような雰囲気のキャッチでしたが、話を聞いてみると嘘は全然言っていなくて、モデルとか俳優というのも間違っちゃいないのです。
ただ、多くの人がいわゆる芸能事務所をイメージしてしまうだけで、実際はエキストラを斡旋する登録制の事務所なのでした。

登録料としてたしか10万円くらいかかったと思います。
しかし、何回か仕事をこなせば元は取れる、と。これも嘘ではありません。
ちゃんと仕事の話も入ってきますので、登録料の持ち逃げということもありませんでした(おそらくそういった悪質な会社も存在します)。
この登録料がこの会社の大きな収入源になっているのかもしれません。
更新料としても毎年いくらかかかったと思います。

カラーコンタクトをしているのですが大丈夫ですか?

この会社にいた間にドラマのエキストラを何度かやったことがあるのですが、初めてやった仕事のとき、ぼくはカラーコンタクトをしていました。

度入りのものを普段使いしていたため、うっかりその日もカラーコンタクトをつけていってしまったのですが、一応監督に、「カラーコンタクトをしているのですが、外した方がいいですか?」と確認しました。

なんか現場の雰囲気的に、普通エキストラが監督に何かを確認するなんてことはないようでした。
監督は迷惑そうな、そんなくだらないことをいちいち確認してくるな的な雰囲気で、「いいよ、そのままで」と言いました。

ぼくはその日、主人公との絡みもあるような役をやりましたが、目の色までわかるような移り方はしていませんでした。
なんか、そんなことを気にしていた自分は場違いだったのかなと今でも恥ずかしくなります。

あ、先輩!お久しぶりです!

そのエキストラ事務所では新規の登録者に向けて結構有名な俳優を招いて演技指導のワークショップをやっていました。

ただ、そんなに演技力を求められるような場面は少なそうですし、そのワークショップ1回で演技力が身につくとも思えません。

高い登録料を支払って、詐欺だとか文句を言われないように、先手を打って「ちゃんとしてる感」を演出しているような側面が強いような気がします。

そのワークショップの中で、5~6人でグループを作り、あるシチュエーションを与えられてアドリブで演技をするという課題が与えられました。

その演技の中で、同じグループの女の子がぼくに「あれ?たっちゃんじゃーん!」と声を掛けました。

とっさにぼくは「あ、先輩!お久しぶりです!」といいました。

このとき一瞬この女の子の表情が引きつりました。

よくよく考えたらこの女の子はぼくより年下だったのでしょう。

ぼくは20~30歳くらいの人の年齢を実際の見た目より高く見積もってしまう癖があり、そのためその女の子も年上と判断したのでした。

これは、ぼくがほとんどの場合実際の年齢より若く見られることや精神年齢が幼いことなんかと関係していると思っているのですが、このときは女の子が引きつったことから察するに、女の子はぼくのことを年上だと判断していたと思います。

鈍感な人なら気づかないような、そのかすかな顔の引きつりが今でも脳裏に浮かび嫌な気分になります。「先輩じゃねえよ!」的な。

今回は、わかりやすい恥とかそんなんではないですが、ぼくとしては今でも時折思い出しては嫌な気持ちになるやつです。
当事者で覚えているひともいないと思います。それだけ些細なことです。

しかし同時に人の共感が得られない悩みの方が、悩みとしてよりレベルが高いとも思っています。

でもここに書いたことで、今回の話ではもううなされませんよ。

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