「スリープ(乾くるみ)」のどくしょかんそうぶん

乾くるみさんの「リピート (文春文庫)」が面白かったので、今度は「スリープ」という作品を読みました(→リピートの読書感想文

スリープは冷凍睡眠装置が登場する話です。コールドスリープのスリープですね。
SF映画に出てくる人が入ったあのカプセルです。

舞台設定からして、わくわくしてきますよね。

あらすじ(核心に触れません)

2006年、テレビ番組「科学のちから」の人気リポーターをつとめる中学生羽鳥亜里沙は冷凍睡眠装置の研究をする「未来科学研究所」の取材をする。
撮影の合間に立ち入り禁止の地下5階に侵入した亜里沙は、超国家機密レベルの恐ろしい事実を知らされることとなった。

亜里沙のファンである八田所長に記念にMFT高解像度スキャナーの被写体第一号になってほしいと頼まれ、秘密を知り、身の危険を感じていた亜里沙はこれを承諾する。

スキャナーの強い光を浴びた次の瞬間、30年後の未来で目を覚ますこととなった。
目覚めさせたのはノーベル物理学賞受賞者であり「科学のちから」で一緒にリポーターを務めた戸松鋭二。

戸松曰く、スキャナーの光刺激により心肺停止になった亜里沙は、八田所長により冷凍睡眠装置に入れられ、蘇生技術の確立した30年後の2036年に、戸松の手によって14歳当時の姿で蘇生させられた、と。

2036年において蘇生は法律で禁止されていた。
そこで、2人は江幡鋭二、姪の江幡亜里沙として逃亡することに。

亜里沙たちとともに「科学のちから」のリポーターを務めていた鷲尾まりんは陸軍情報本部国家公安部所属の情報処理技師となっており、恋人であり部下でもある、貫井要美とともに、戸松の身柄を確保するよう、命令を受ける。

30年前に未来科学研究所で何が起こったかを知っていたまりんは、戸松が成し遂げたことを瞬時に理解し、一個人として、亜里沙の行方を捜す決意をするのだった。

感想

冷凍睡眠装置の設定、30年後の未来の舞台設定、どれも説得力がありリアルですね。

まず冷凍睡眠を難しくしている要因として、固体化することで体積の大きくなる特殊な物質、水の存在です。
水が凍ることで体積が増え、その結果細胞が壊れてしまう。
未来科学研究所はそこでアモルファス氷(ガラス状の水)を用いて、これを実現しようと研究し、実用化させたんですね。

ちなみに、液体窒素で金魚を凍らせても、解凍させたら泳ぎだすって聞いたことがあったんですが、調べたところ、あれ、実際は凍ってないみたいですね。
金魚の表面の水だけが凍って、身動きが取れない状態になって凍ったようにみえるだけのようです。
なので、金魚を完全に凍らせてしまうとやはり死んでしまうようです。

で、未来科学研究所は宇宙船での人の惑星間移動のために冷凍睡眠が必要で、そのために研究していると表向きでは謳っていますが、実際はずばりクライオニクス:死者の未来での蘇生のための研究なのです。
医療技術が発展している未来で、現代ではどうにもできない病気による死を解決したりすることを目指し、遺体を冷凍保存するための技術を研究しているというのです。
この辺の設定が結構グロテスクな感じですよね。
実際にアメリカで遺体を冷凍保存している組織があるようですが……。

このスリープのテーマのひとつに「行き過ぎた科学への警鐘」があげられますが、この設定が語られる時点ではそのテーマについては触れられていません。
しかし、このあたりでも十分その匂いがありますね。

遺伝子組み換え治療とかのときによく「神の領域に触れてはならない」的な意見が出てきます。
この話題においての直感的で無責任なぼくの立場としては「あなたのいう神が存在するとすれば、禁止ではなく初めから不可能なこととしてこの宇宙を作っているだろうから、できることなら何でもしていいんじゃない?」って感じだと思います。
しかし、クライオニクスのようなもっと倫理的にデリケートなところに深く食い込んでくる問題については、どんな立場をとっていいかよくわかりません。
読み進めていくと「行き過ぎた科学への警鐘」をテーマにするにはふさわしいくらいのなかなかとんでもない話になっていきます。

30年後の未来の設定についてですが、科学技術的には、濡れた身体や衣類が瞬間的に乾く装置。
これが画期的な印象でしたね。
他は一般人の生活における変容としては現代の延長上である感じでしょうか。
30年語の未来(現在からだと、19年後ですね)だとリアルにそんな感じかもしれません。

80年代の21世紀予想とか、車が空を飛んでいたり、宇宙ステーション的な構造の建物がいっぱいあったり、ハード的にガラッと変わったりしていましたが、実際21世紀を迎えてみると目に見えてそんな変わってなくね?って感じですもんね。
でも、インターネットの普及だとか、パソコン、スマートフォンなどのソフト的なガジェット的な面では、その未来予想を超えて進歩している印象ですもんね。
なので、妥当かもしれません。

一方制度的には、日本が道州制になっていたり、大統領制になっていたり(櫻井大統領なる人物はもしかして?)、憲法が改正されて陸軍がパトロールしていたり、結構大きく変わっています。

この話も、SFを舞台にしたミステリーです。
この辺の仕掛けもやはり考え込まれていますね。
途中で、トリックが分かってきても、作者の想定のような気がしてきます。
ネタバレは避けたいのでトリックについてはあまり語れませんが、驚きの展開です。

そして恋愛小説でもあります。
戸松博士は30年間、アリサを目覚めさせて、一緒に過ごしたいためだけに人生をささげて研究を続けてきました。
まさに30年越しの恋です。
それにしても、なかなかみなさん特殊な嗜好をお持ちのようです。
まあ、恋愛は自由ですよね。ってそういう次元を超えているところがミソですね。

……なかなか感想文って書くのが難しいですね。
自分がちゃんと内容を理解しているかどうか自信がないですし、なかなかどんな感想を持ったかっていうのも、表現するのが難しい。
端的な感想を要所要所で持ったりはもちろんありますが、それを一本の文章に紡いでいくのが難しいですよね。
的確なわかっている風の感想を持たなきゃなんて思ったりします。
ここでも自意識過剰なぼくです。

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